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Series 08|耐量子暗号(PQC)とCrypto Agility

全3回中3回・更新中

量子コンピュータが実用化されると、金融機関の通信や電子署名を守る公開鍵暗号は破られるおそれがあります。攻撃者は、暗号化されたデータを今のうちに盗み、将来解読する「Harvest Now, Decrypt Later」を狙えます。米NISTが2024年に耐量子暗号(PQC)の標準を公表し、移行は現実の課題になりました。本シリーズでは、リスクの時間軸、暗号の棚卸し、そして暗号を柔軟に入れ替えられる仕組み(Crypto Agility)を含む移行計画を、全3回で解説します。

このシリーズの記事

  1. 第1量子コンピュータは金融機関の暗号をいつ脅かすのか量子コンピュータが公開鍵暗号を破るのは、まだ先の話でしょうか。専門家調査では、暗号を解読できる量子コンピュータが15年以内に実現する可能性は51〜70%。解読に必要な規模の見積もりも下がり続けています。しかも、暗号化された通信を今盗んで将来解読する「Harvest Now, Decrypt Later」により、脅威はすでに始まっています。本稿では、破られる暗号と影響、モスカの不等式による「間に合うか」の判断、金融庁とNISTが示す時間軸を整理し、今年度のうちに始めたい3つのことを示します。
  2. 第2まず何を棚卸しするか ― Cryptographic Inventoryの作り方耐量子暗号(PQC)への移行は、暗号の棚卸しから始まります。しかし暗号は製品やライブラリ、委託先のシステムに埋め込まれ、既存の資産台帳からは見えません。本稿では、電子証明書、TLS、VPN、HSM、アプリ組込みの暗号、外部API、委託先という7つの領域で何を記録し、ヒアリング・自動検出・ベンダー照会でどう集めるかを解説します。さらに、データの保護期間と更新の難しさの2軸で移行の優先順位を付ける方法と、棚卸しを一度で終わらせないための注意点を示します。
  3. 第3PQC移行ロードマップとCrypto Agilityをどう設計するか耐量子暗号(PQC)への移行は、古い暗号を一度入れ替えれば終わる作業ではありません。標準化は続き、PQC自体のリスクも残り、相手先と足並みをそろえる必要があります。本稿では、英国NCSCの3段階の目安と金融庁が示す「2030年代半ば」を重ね、PoC、ハイブリッド方式、ベンダー確認、更新設計、移行ガバナンスの5つの取り組みで中長期ロードマップを組む方法を解説します。NISTの定義に基づき、暗号を速く安全に入れ替えられるCrypto Agilityの作り込み方も示します。